皮膚科医には探している皮膚病がある。皮膚疾患の病名の数は実はものすごく多く、私も医学生の頃は、もちろん授業は居眠りなどせず真面目に受けていたが、水虫と湿疹ぐらいしか知らなかった。皮膚科医になってびっくりしたが実は皮膚病は2,000個とも3,000個もあると言われている。すべてを知っていれば何も問題はないのだがなかなか難しく、見たことがない皮膚病の方が多い。皮膚科医であれば誰しもこの患者さんが来たら絶対に診断してやろうという自分の『My皮膚病』のようなものが必ずあって、まあヤマを張っているような感じだろうか。私にもいくつかはあるが例えばスポロトリコーシスである。最近、全国的に減ってきてはいるが極めて珍しい皮膚病ではないし、試験にもよく出題されるので、有名な疾患ではあるが、実は北海道で症例が少なく、今まで見たことがない。来たら絶対に診断してみせると手ぐすね引いて待っている感じである。これが良いのはスポロを探しているとその他の感染性肉芽腫をつくる皮膚疾患を見落としにくくなることである。白癬菌性肉芽腫は余りないとして非結核性抗酸菌症はひろえそうだし、何となく非感染性肉芽腫まで引っかかってくる。良いことずくめである。
しかし題名につけた『ついに来た。』のはスポロではない。
『うちのネコの足の付け根の毛が抜けているのだけどついでに見てもらえないだろうか?』
・・・ついにネコの診察依頼が来たのである。
実は私の『My皮膚病』にはネコの脱毛症がある。しかしネコが難しいのはどうしても往診になるし、診察した後で正解が知りたくなるので、改めて獣医さんに連れて行かなくてはならないし、誰が連れて行くかと行ったら詳しい話を聞きたいので私が行きたいし、そうするとまた手を咬まれるに決まっているし、なかなかハードルが高い。それになんと言っても引き受けるにはまだ自信がない。まあ実は今回の依頼は実家のネコなので冗談半分の依頼だろうし急いで見に行く気もないが、潜在的にはそのような患者(患獣)さんは必ずいるわけで、もし外来に患者さんが来て、感染する皮膚病があって、実は家のネコにも・・、ウシにも・・、ニワトリにも・・となったときには仕方がないが私が行かねばなるまい。いやむしろぜひ行ってみたい。