意外だがたまに「先生、おしゃれですね。」などと言われる。もちろん自分がおしゃれでも何でもないことは自分でよく分かっているので、「いやいやそんなことないですよ。帽子かぶってるからそう見えるのかなははは。」とか適当に相づちを打っているのだけど、何度か言われるとだんだんつらくなる。たまにイオンのユニクロにいくが、なんだか気持ちよく買い物ができない。
「さてさてこのねずみ色のズボンでも買おうかな。サイズもまあこんなものだし。あらら、また少しおなかがきつくなっちゃったかな。でも値段も手頃だし2個買っちゃおうかな。」
「ふふふ、おいおいあんたはそんなズボンを選ぶのかい。おしゃれ先生。」
「えっ!?君は誰だ?」
「俺はお前だよ。おしゃれ先生。」
「え?何だかよく分からないけど、僕は別におしゃれじゃないよ。このズボンが欲しいだけなんだ。」
「ふふふ、そんな何の面白みもないズボンをはいて何がおしゃれ先生だ。恥を知れ!」
「恥って、だから僕はそん・」
「ラシックへ行け。」
「ラ、ラシック?あんなおしゃれ上級者が集まるところで無理だよ。」
「Gate Towerのユニクロに行け。」
「いいよ、いいよ。僕は近くで済ませたいんだ。別におしゃれなカフェにもレストランにも行かないし、普段はせいぜいピアゴに買い物に行くぐらいだし、外に出たくないんだ。」
「だからお前はダメなんだ。」
「えっ?」
「いつまでたっても適当な中途半端な半人前なのさ。論文だって書いてないだろう。医真菌学会から依頼されていたデータの集計はどうなってるんだ?」
「いやあれはまだもう少し・・ごめんなさい。でも開院でバタバタしていて・・」
「言い訳するな!!俺が選んでやるよ、おしゃれ先生。この赤いズボンをはけよ。」
「そんな赤いズボン・・。変だよ。もう若くないんだ。」
「変かどうかはあんた次第さ。あばよ!!」
「・・・。」
こうして本当は着たくもない服が増えていくのです。